福島家庭裁判所郡山支部 昭和43年(少ハ)1号 決定 1968年5月04日
本人 K・I(昭二二・六・二三生)
主文
本人を昭和四四年一月三一日まで継続して医療少年院に収容する。
理由
本人は昭和四二年三月二四日非現住建造物放火保護事件により当裁判所において医療少年院送致の決定を受け、医療少年院としての盛岡少年院に収容されたものであるが、同年六月二三日で満二〇歳に達するため、送致決定後一年を経過する昭和四三年三月二三日をもつてその収容期間が満了するところ、同年三月八日盛岡少年院長渡辺正止より未だ犯罪的傾向の矯正されず退院を不適当と認めるとして本件申請がなされた。その申請の具体的事由は同申請書添付の意見書記載のとおりであるからこれを引用する。
当裁判所は本件審理のため盛岡少年院分類保護係長板橋富士男、同少年院教官西坂治信の意見をきき、本人K・I及び保護者(実父)K・Sを尋問した。
本人は昭和三九年七月二四日窃盗並びに非現住建造物放火保護事件により当裁判所において医療少年院送致の決定を受け同年同月二七日より医療少年院としての盛岡少年院に収容され約一年七ヵ月の矯正教育の後、昭和四一年二月二二日仮退院したところ、仮退院後約一年を経た昭和四二年二月中旬に相次いで四件の非現住建造物放火の非行を犯し前記のように再度本少年院に収容されるに至つたものであるが、審理の結果によれば今次収容期間の満了する昭和四三年三月二三日においては未だ一級下の処遇段階にあり少年院での教育過程を完了してあらず、本人の犯罪的傾向の是正は前回収容時に比し多少見るべきものがあつたとは言え、まだ極めて不十分な状況にあることが認められる。即ちその知能は魯鈍級(IQ六七)の精神薄弱者であつて感情、情緒面の未成熟さは余り改善のあとがみられず、些細なことで過度の緊張を持ち易い習性はいぜんとして残存しており、更にこれに吃音(以前に比べかなり改善されたが)が伴つてその精神活動は甚だ低調である、又家庭環境はまだ本人を直ちに受入れる態勢が整つていない。従つてこのままの状態で本人を退院させることは、かなり危険であり、少なくとも今後少年院における教育過程のしめくくり的作用をもつ上級生としての生活を通じて自律的な精神を養わせ、規範意識を培養せしめることが必要であり、そのためにこの際収容を継続し少年院における全矯正過程を経由せしめることが妥当なものと考える。
なお本少年院においては、再度収容の者並びに精神薄弱者については、他のものと区別してより長期間の予定のもとに矯正過程を施しており、本人が再度収容者であると共に精神薄弱者であるがため、特に反則等もなく院内における成績も良好であるにも拘らず通常の者よりやや進級が遅れていることがうかがえるが本人について認められる上記の如き状況からみてこの取扱いが特に不合理とも考えられない。
本人はこのまま順調な経過をたどれば昭和四三年四月一日一級の上に進級し、更にその後約四か月で退院させることが可能と認められるのであるが、本人は前記のごとき精神薄弱者であつて、上記矯正過程を完了せしめたとしてもそれによつて著しい改善は期待できないうえ、他方本人の帰住すべき家庭環境はまだ十分受入れ態勢が整つておらず保護者の保護能力もかなり低いことが認められるので、専門のケースワーカーにより退院後の本人の生活環境を調整せしめ保護者を補佐して本人の指導育成に当らせることは必要不可欠のことと言わなければならない。少年院法第一一条第二項ないし第四項に定める収容継続の期間に仮退院後の保護観察期間を含めることが許されるかは議論のあるところであるが、少年院における矯正教育の効果を退院後においても維持し、再非行を防止するためには、多くの場合爾後家庭環境の調整、就職、その他退院者の指導育成のため一定期間保護観察に付することが不可欠であり、むしろ両者を一体的なものとしてとらえることがこの種保護処分制度の趣旨に合致するものと考えられる。そうだとすれば少年院を退院させた後における保護観察の必要性の存する限り、その期間を含めて収容継続の期間を定めることが当然許されるものと解すべく、本件については、仮退院後の保護観察のため少なくとも六か月の期間を必要とするものと認められるのでこれを含めて本人に対する収容期間満了日の翌日である昭和四三年三月二四日から昭和四四年一月三一日までをその収容継続期間とすることが相当である。
よつて少年院法第一一条第四項により主文のとおり決定する。
(裁判官 長崎裕次)